映画「警察日記」1955 日活111分
監督 久松静児
出演 森繁久弥 三國連太郎 三島雅夫 十朱久雄 織田正雄 殿山泰司 宍戸 錠 伊藤雄之助 東野英治郎 左 卜全 多々良純 三木のり平 稲葉義男 高品 格 二木てるみ 小田切みき 岩崎加根子 坪内美子 飯田蝶子 沢村貞子 千石規子
想像してしまう、この映画が公開されていた頃の映画館の様子を。昭和30年、映画が娯楽として最高潮に達していたころ、テレビ時代はすぐそこまでやって来ているが、街に何軒もある映画館はどこも超満員、1週間で入れ替わる作品を見逃すまいと沢山の観客が押し寄せる。立ち見で押し合い圧し合い立錐の余地も無い、入りきれない観客は閉まらないドア越しに一部しか見えない画面と聞こえる音声に集中して何とか楽しんでいる。皆が画面に集中し、館内が一体となり、緊張し、興奮し、爆笑し、ホットしたり、涙ぐんだり、怒ったり、地面は揺れ、建物が傾ぐようだ、そして「終」或いは「完」のエンドマーク後、明るくなった館内は上気した顔で溢れ、次回上映の席取りで騒然となる、この「警察日記」もそのような中で上映され、家族皆で楽しめる映画としてヒットした筈だ。私も親に連れられ見ているかもしれない。この出演者の豪華な顔ぶれが凄い、戦後映画界を支えた男優女優達で、映画の内容から飛びきりの美人女優は登場しないが、宍戸 錠はこの作品がデビュー作で美男子ぶりは後の「ジョー」からは想像出来ない、そして何といっても、この映画のヒロインは5歳の二木てるみである「赤ひげ」での新人女優としての名演技の印象が強かったが、それは此の頃から既に培われていたものとわかる、顔付も殆ど変わらず5歳の面影を後々まで残している、その可愛らしさは多くの特に母親たちに印象を強くしたに違いない。
映画は東北福島のある町の警察署を舞台にした、戦後10年たった住民たちの生活ぶりである、敗戦の痛手から立ち直り、女性の地位向上、社会進出も進み、経済的にも復興し始めて来ているが、その潮流に乗り遅れた不幸な弱者たちも多い、そんな人々の混乱した生き様が警察署を舞台に繰り広げられる。二木てるみは赤子の弟ともに捨て子として保護されるし、岩崎加根子は「くちきき」屋に騙されて紡績工場へ行く前に保護される(実際は彼女もグルで「おとり」のようなのだが)そして軽犯罪の殆どが極貧からの食べることにも事欠く状態を要因とした窃盗であったり、無銭飲食だったり、詐欺だったりで時代背景を反映している、そこに好演している幼い子供が絡んでくれば「お涙頂戴」の悲劇にもなり、しんみりした人情話となる。また一方で強者の中心は商家の次男坊が県議会議員となり地元に凱旋し、芸者をあげての歓迎会となる、警察署も含めた行政の対応ぶりも街をあげての接待となり、ついこの間まで続いていた慣習は此の頃根付いたようだ。経済的に豊かになっていることも、そして観客に豪華さを示すことで元気になってもらいたい主旨も織り込まれている。戦前の「特高」的イメージの警察機構の払拭も重要なテーマであろう、親切この上ない署長を中心とした幹部巡査の人情味あふれた対応とそれを見る若い巡査の眼差しが将来の希望にも繋がり、素晴らしい時代の到来を示しており、最後には駄目押しのように、新設なった自衛隊入隊のシーンを加え、一気に高度成長へ進むことになる。十年間が戦後の節目となったのか、当時の様々な現象を網羅しており、社会派映画台頭の反面での娯楽家族映画の集大成の作品となっている。昭和30年「キネマ旬報」日本映画ベスト・テンでは「浮雲」「夫婦善哉」「野菊の如き君なりき」がベスト3で「警察日記」は第5位だった。
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