旅行「松山劇場」
野球の話ではない。四国松山「坊ちゃんスタジアム」でプロ野球公式戦でどんなデッドヒートの熱戦が繰り広げられようとも、翌日のスポーツ新聞に「松山劇場の熱戦」と見出しの付くことはない。何故ならば松山に「松山劇場」は既に存在しているからである。
昨年末四国松山を訪れる機会があった、大街道からブラブラ歩くと珍しく役者名の入った登り旗が翻り、その6階に劇場があることがわかった。詳しいことは何もわからず、エレベーターで上へ、本日「芝居の日」均一千円との貼り紙、昼の12時開演ですでに2時間経っていたが残り1時間あり途中入場も可能とのことで入った。200人程椅子席が並び、7割位埋まった客の中に座る。大衆演劇常設劇場であった、本日は「劇団蝶々」座長、中野弘次郎の公演である。埋まっている席の九割は女性、そのまた九割は七十歳以上と見られ、その熱気が伝わってくる、音が流れ始める、司会の名調子で座長 中野弘二郎が紹介される。本日特集の「美空ひばり」の唄が流れ始め、女装姿の「おかめ」二人と男装姿の「ひょっとこ」三人の踊りが始まる。そして以降「ひばり」の曲に合わせて座員十数名が入れ替わり、粋な男衆や妖艶な女形の和装で登場する、会場はざわざわすることなく舞台に見入っており、時には後方の席から走り寄り、踊っている男優の着物の襟に札を捻じりこむ、夢見心地なのだろう、上気した顔が可愛い。選曲も素晴らしい、「人生一路」「おまえにほれた」「なつかしい場面」「みれん酒」と踊りに似合う渋い曲から有名曲「愛燦々」「川の流れのように」「乱れ髪」など次々と替わり、座員も曲により交代してゆく、「柔」「悲しい酒」と往年のヒット曲となり、そこでハッとしてタイムスリップに陥る、何十年前になるか場末の劇場での「ストリップショー」が浮かび上がる、にきび面で目を輝かせながら舞台に見入っていた頃のことを。しかし正に逆転しているのである、当時舞台は「おばさん」が和服一枚一枚脱いでゆきそれを若い男たちが見入る、ここでは若い男たちが舞台で見えを切り、それを「おばさん」が見入るのである。そこに同じ「ひばり」の曲が流れている。「日本」を感じる一瞬であった。1時間ほどでフィナーレとなり客席に何か投げ込まれ競って拾うと、座長のポートレートのついたポケットテッシュだった。前半2時間の内容は「舞台劇」だったのか不明だが、3時間十分楽しませ、千円とは芸能の原点を見る思いがした。1階の出口では座長をはじめ座員が御礼に並び、またの御入場をお願いしている。
検索サイトで「大衆演劇」を見ると全国に何か所も専用劇場が紹介されている、ホテルなどのイベントとしても開催しているようである、大阪通天閣界隈の「朝日劇場」「オーエス劇場」は以前観劇したことがあり、同じような構成で地元婦人たちを楽しませており、劇団の方はそれらの劇場に月単位で移動して公演しているようである、旅の一つの楽しみとして加えるのも一興である。
もうひとつ付け加えたい、その同じビル2階にある映画館「シネマルナテック」のことで、昨近ショッピイングモールに併設されたシネマコンプレックス全盛の時、「名画座」として孤軍奮闘している。160席ほどの小さい館内だが、まず最初に驚くのは、座席全てに手作りの座布団が置いてある、模様がそれぞれ違っているのでそれとわかり、見るからに温かみのある光景が飛び込んでくる、館長一人で経営しているのか、ポスターや販売している書籍などに個性があるし、上映ラインナップにも表れている、タイムスケジュールも少々複雑で、当日(昨年12月23日)では午前11時「海洋天堂」1時「未来を生きる君たちへ」3時「お家をさがそう」5時はまた「海洋天堂」となっている、従って1日で3本見ることも可能で、その際「はしご割引」料金も設定されており2本目以降は千円で鑑賞できる。当然回数券も用意されている、映画好きにとっては堪らない映画館で近くにあれば日参したくなる程だが、残念なことに私が見た回は5名の観客であった。是非この火を消すことなく頑張って続けていただきたい。4階の映画館「湊町シネマローズ」は現在休館中である。
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